N5589-C(燻りの星)
高次元資料館
登場人物
遺された記録
そこは美しい星空が広がる世界だった。生憎と星についての知識はほぼ持っていないが、それでも、この美しさを感じ取れるだけで今は充分だと思った。
砂利の広がる地面を歩く。たまに大きめの石が顔をのぞかせたりしていて、躓きそうになったりもする。それでも、星空を切り取る森や山がない、地平線まできれいに映し出される星々を、感嘆を零しながら見るのをやめられない。
やがてそこらの石とは違う、もっと大きなものが地面に突き刺さる地点へとたどり着いた。これは建造物の成れの果て。無骨な荒削りの石だが、周りの配置を見るに、門のような役割を果たしていたのだろう。ざらざらとした手触り。歪な形。まだ原始的な文明だったのか、それとも豪快な民族だったのか。彼らが滅び、建造物さえほとんど埋もれてしまった今では知る由もない。
ひと際大きくせり出していた石の塊には、壁、天井、そして扉と思しきものが、崩れかけながらも残っていた。外側も内側も、目立ったような装飾はない。やはり飾らない民族だったのだろう。扉は出入口とおおよそ同じ形、大きさの石で、蓋をするような感じで使っていたと思われる。
この星には、今はなんの文明も存在しない。数多の世界を旅すれば、こんな世界はいくつでもあり、別に珍しいことではない。しかし、それらの世界は、そもそも生命が誕生するには到底無理な気候になってしまっていたり、もう星の寿命が限界を迎えつつあるものだったりする。だからこそ、ここまで美しく、生命にとっては楽園のような世界が、何の生物にも支配されていないのが不思議でならない。
これから数百年、数億年とかけて、また生命が栄えていくのか、はたまた天災が起きてすべて火の海に沈んでしまうのか。それは僕が知ることではない。しかし、願わくは、もう一度栄えることのできたこの世界に訪れて、過去となってしまう今の話を面白おかしく話してみたいものだ。