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熱と消えた魂
高次元資料館

登場人物

***、***

 今回、彼が危険な世界へ行くと聞いてから、ずっと怖くて仕方がなかった。引き留めても彼はやる気で、これを乗り越えればきっと怖いものがなくなるなんて言って。私たち学芸員は、痛覚もほとんどないし、いろんな世界の生物の中でも非常にタフな方ではあると思う。死んだってまた補充されるから、仕事全体に対しての痛手はそんなにない。でも、生死という概念は存在していて、感情も記憶もあって、ひとりひとりの思いだってあるのに……
 およそ生物が住める環境ではない、赤くグツグツと煮えたぎる川に沿って駆ける。空は赤黒く濁っていて、山からは絶えず溶岩が流れ出ている。こんなところで生物のいた痕跡を探して集めて、一体何になるというの。館長は一体何を考えているの。私たちは、消費されるために生まれてきているの?
「***!!」
焼かれて焦げた衣服を心もとなく羽織り、硬い地表面に転がる彼を見つけた。やっぱり、やっぱりこうなるじゃない。こんなこと分かりきっていたのに、どうして彼も周りも、どうして。
「なんでいるの、危ないよ……早く帰ったほうが良い」
「アンタを置いて帰れるわけないでしょ!」
もう助かるような状態でないことは、誰が見たって分かる。彼自身もそれを深く理解しているようで、金色の美しい目は、すべてを受け入れる色を見せていた。
「僕はもう生きられないよ。分かるだろう、もうこんなだから」
「……じゃあ、アタシがアンタの最期を見届けてあげる。寂しくないでしょ、そのほうが」
「あはは、***らしいや」
瞳も徐々に濁りだしている彼の体を抱きしめる。非常な熱が伝わってきて熱いけれど、離さない。そのままずっと抱きしめて、火山が噴火しても、地面が大きく揺れても、ただ彼のことだけを見つめ続けた。それが、アタシにできる精一杯だった。
 やがて噴火によって溢れ出した溶岩はすぐそこまで迫り、耐えられる温度の限界を迎え始めていた。もう動かなくなった彼を強くギュッと抱きしめて、地獄のような世界の中で呟いた。
「アタシも一緒に寝てあげる。寂しいのは、嫌だもんね……」

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