top of page
流星
高次元資料館

登場人物

アンネス、ベリー

 目の前に広がる、大きなクレーター。ぐるりと一周回るだけでも、四、五刻はかかるだろう。自然の大災害が作り出した、神秘的とも、破壊的ともいえる造形。そんなに珍しいものでもないが、こうやって目の前で見ることはあまりない。
「どう、すごいでしょ。空にもたくさん流星が見えるのよ」
すごいものを見せたいからと、半ば強制的にベリーに連れてこられたこの世界。似たような世界は今までに見たことがあったかもしれない。でも、きっと二人で見ることが、彼女と見ることが、特別な意味を持つのだろう。
 クレーターは他の星がぶつかった跡なわけで、もちろん、そのとき周囲一帯に与えるダメージは、何物にも防げないとてつもないものだ。ぶつかってきた星の大きさによっては、完全に地獄と化してしまうこともあるが、この世界は運が良かったようだ。それでも、ここに栄えていたはずの町は跡形もなくなってしまっているのだが。
「流星とともに天に旅立った民族……なんて言うと、ちょっと神秘的よね」
「でも実際は隕石に破壊されただけだよ」
「いいじゃん、ロマンチックな方が惹かれるでしょ!」
表現の仕方はそれぞれ。一緒に生まれて一緒に教育を受けた僕たちでさえ、資料の纏め方も、記述の仕方も、目をつける場所も違う。だからこそ、保管されているどの資料を読んでも飽きないのだと思う。
「アンネスは想像力が足りないのよ。だから堅苦しい資料ができるんだわ」
「僕らが作ってるのは資料であって、物語じゃないじゃないか」
ベリーの作る資料は、なんとなく物語調であることが多い。世界に着いたときのことから、自分の感じたこと、心情まで書いてあって、結構とっちらかっている印象を受ける。彼女のポリシーを否定するわけではないが、膨大な資料すべてに目を通す館長のことを考えると、もっと簡潔で分かりやすい方がいいのではとも思う。
 現れては消えるたくさんの流星を見上げながら、ベリーはやや小さな声で呟いた。
「館長には会ったことすらないけど……アタシはね、少しでも楽しんでほしいと思ってる。お堅い資料ばっかりで、ただ資料を読むだけの作業になってほしくないなって。それが独りよがりな思いだとしても」
僕にはまだ、彼女の気持ちは分からない。どれだけお堅く見える資料でも、自分の知らないことがたくさん書いてあるお宝で、読みにくくてもまた読み解くのが面白い。同じ学芸員でも、こんなにも違うものなんだなぁ。
「もし形式ばった資料だけが欲しいなら、きっとそういうルールがあるはずだし、アタシたち学芸員にも個々の性格なんてなかったはずでしょ」
「……それは一理ある、かも」
館長は一体どんな方なんだろう。ジレイディさんは優しい方だと言っていたけれど、僕たちに対してもそうでいてくれるのかな。いつ会いに来てくれるのかな。生きている間に、会えるのかな。

bottom of page