太陽にはなれない
龍のコトダマ
登場人物
小黒 真、オルビス
彼女と出会ったのは中学生の頃で、その時の私にはもちろん、生まれてから共にいる龍神がいた。依代も無しに私の龍神を下し、そして私に依りついたときのあの溺れるような記憶はまだ鮮明だ。なぜ彼女は私を選んだのか。それも、すでに随分と成長していた私を。聞く話では、龍神の力が弱い赤子の頃を狙って再憑依するのが普通らしいのだが、なぜ彼女はそうしなかったのだろうか。今まで何度か問うてみたが、回答らしいものは得られていない。
「ねぇ、真。あなたは私を恨んでる?」
身体を刺すほど強い日差しの降り注ぐ日だった。彼女、私の龍神であるオルビスは、そんなことを聞いてきた。彼女の表情はひどく静かだった。
「恨んでいるなら、とっくの昔に自害しているさ」
一人の人間に二人の龍神が宿ることはできない。オルビスと出会ったあの時、私は赤子の頃からの相棒を失ったのだ。彼女はそのことを思って、先のような問いを投げかけてきたのだろう。
涙の止まらない日もあった。崖から身を投げようかと考えた日もあった。まだまだ未熟だった頃は、激しい心の乱れに、自分のなにもかもを喰われてしまいそうになることはよくあった。しかし、人間というものは都合がいいのか悪いのか、時間が経てばそれらの感情もどんどん薄れていってしまう。今はもう過去のことだと受け入れて、むしろ珍しい体験をしたと上向きにすらなっている。残酷だな、なんて他人事のように笑うことも慣れてしまったほどだ。
「私はずっと、あなたに申し訳ないことをしたと反省しているの。だけど、これでよかったんだとも思ってる。あなたほど"道標"になる人間もそうそういないもの」
「……相変わらずきみは物語が大好きだな」
彼女の使命を知った私は、ただ、彼女の支えとなるように動くだけ。もっと上の者たちからは、お前もまだまだ先があるなどと言われそうだが、この物語の中で私は主人公ではない。脇役は脇役らしく、静かに、しかし確実に、己に課された使命を果たすだけだ。