天より眺める妖
黒色の喰
登場人物
アマネ、カサネ
生命を終えた魂の行き場は、きっと世界によって違うのだろう。ここでは、魂は神のいる天上へと昇り、転生のときを待つ。それがどんな聖人であろうと、どんな大罪人であろうと。
永い永い時の中で、ひとつだけ創造神に目をつけられた魂があった。裏側の前女王、カサネ――彼女は創造神であるアマネから、天上にいながら肉体を与えられ、転生の輪から外れた存在となった。随分勝手なことだが、彼女は何も言わずにそれを受け入れた。
ある時、どこかをぼーっと眺めていたアマネが、カサネに言葉を投げかけた。
「随分と酷いやつじゃのう、お主の元伴侶は」
カサネは少し驚いた顔をしたあと、何かを思うような顔で俯き、そして目を伏せた。
「ええ。彼は少し遊びすぎるところがあります」
返答の声はとても落ち着いていて、感情のゆらぎは見られなかった。アマネはちらりと隣を見てから、からかうような、試すような口調で、また問いを投げかけた。
「少しもその地位に見合う男に見えん。何故放っておいたのじゃ」
「確かに彼は極端な手段を選びがちです。しかし、国の平和を願う気持ちは、局長として十分過ぎるほど持っていると思うのです」
カサネが言葉を紡ぐたび、アマネは首を傾げる。遊びで呪いをかける妖が、自身の愛人すら駒として殺害する妖が、国の平和を願っているなどまったくもって思えない。
「何故あやつを庇う。お主はあれに殺されたのじゃろう」
「……それだけ、彼を深く、とても深く愛しているんです。なのに私は……彼を救ってあげられなかった」
俯いたまま悲しげな表情を浮かべるカサネの顔に、声に、一切の嘘は含まれていなかった。ただ純粋に、愛人を想い、憂う瞳を揺らしていた。
「最愛の妖すら救えない。私は殺されて当然の王だったのかもしれません」
彼女はあまりにも優しすぎる。アマネは小さくため息をついた。世を統べるには、優しすぎても、厳しすぎても駄目だ。さて、彼女と彼女の元伴侶、どちらが王に向いているのだろうか。
「これまた難解な問いじゃのう」
きっと二人のことは二人にしか分からない。アマネはそれ以上言葉を発さず、ただじっと忙しない下界を見つめていた。